「同調」すれば釣れるのか ― 名人が認める条件、認めない条件【第一部】

釣り場で、いちばんよく聞く言葉

「今日はうまく同調できなかった」
「もっと同調させないと……」

いま、フカセ釣りの現場でこの言葉をよく聞きます。撒き餌と刺し餌を同調させる――多くの釣り人が、それを気にしています。

では、その「同調」とは、いったい何でしょうか。そして、それは本当に、海の中で起きているのでしょうか。

遠矢国利名人に聞きました。遠矢釣法では同調という言葉は聞いたことがなかったのですが、名人から返ってきた答えは、頭ごなしの否定ではありませんでした。

「同調」とは何を指す言葉か

同調っていうのは、たぶん、付け餌とコマセを同じような速さで――同じ沈下速度、同じ流れる速さ、そのすべてを同調させるということなんだろうけど。理屈は合ってるよね。撒き餌と同じ速さで流れて、同じところに行くという。相手に警戒心を与えない。

「同調」とは、動きを合わせること。撒き餌の粒と、針に付いた一粒が、同じ速さで沈み、同じ速さで流れ、同じ場所にいる。だから魚は警戒せずに食ってくる。遠矢流は、この考え方そのものを頭から否定しているわけではありません。

問題は、その先です。

【前提】潮は、層によって違う動きをしている

同調の話に入る前に、どうしても押さえておかなければならない前提があります。海の潮は、層ごとに別々の動きをしているという事実です。

沖の鯛釣りで、オモリを落としていくと、まっすぐだった道糸が、底のタナに近づいたあたりでぐっと斜めになることがあります。これは、上(船のいる表層)と底とで、潮の流れる向きが違うために起こる現象――二枚潮です。

さらに、水深100メートル立ちでアジを狙うと、仕掛けが最初は左へ入っていたのに、途中から右へ向きを変えることがあります。表面・中間・底で、それぞれ潮が違う流れをしている――三枚潮です。原因は水温差や塩分濃度の違いで、それぞれの層が”勝手に好きな方へ”流れていく。

(二枚潮のしくみは、「二枚潮は塩水が浮いている」は物理法則を無視した俗説 でくわしく解説しています。)

上と下で潮の向きが違う。表層と中層と底で、流れる速さも方向も違う。その海の中で、撒き餌の粒と針の一粒を、同じ速度で同じ場所に流し続けることは、はたして可能でしょうか。名人の答えは、こうです。

うまくいくわけない。頭の中(の話)。

それでも「同調で釣れている」人がいる ― では、いつ、何が釣れているのか

とはいえ、「同調で釣れている」と言う人は、確かにいます。名人も、それは認めています。

大体3月ぐらいから6月いっぱいぐらい。メジナもクロダイも上ずっていることがある。こういうときは宙層で餌とコマセを同じ速度で落としてやると良い場合が多い。

つまり――

  • 魚種はメジナ
  • 時期は3月から6月いっぱい
  • 条件は、魚が上ずってくる(浅いタナまで浮いてくる)とき

この三つが揃ったとき。魚が浅いタナにいるから、深く沈める必要がない。だから同調が成立する。

では、クロダイの場合はどうでしょうか。

それこそやっぱり春先だよね。4月の後半の佐渡島から日本海全体にかけて。水深が15メートル近くあるのに、3メートルくらいまで(クロダイは)浮いてくる。その時期は、深いところでは全く食わない。

水深15メートルの海で、チヌは3メートルまで浮いている。表層近くの、浅い層に魚がいる。この状況なら、同調させようとしなくても、勝手に同調しているような状態です。

だから釣れる。ここまでは、名人も認めるところです。

「1年のうち、食い方が違う」

問題は、その条件が1年のうちの、ごく一部でしかないということです。

1年のうち、その食い方が違うからね。水温が上がってきて、(特にクロダイは)夏以降はもう絶対浮いてこないから。まあ、絶対ってことはないけど、たまにはね。

クロダイが上ずってくる季節は限られています。春は産卵が関係していることもあるし、また水温が関係して、海底にいない(上ずっている)こともあります。しかし水温が上がる夏以降、クロダイは浮いてきません。となると、クロダイは基本的に深いタナ(底ベタ)にいる。撒き餌も刺し餌も、そこまで届けなければならない。

そこで多くの人は、表層からすべての層をさぐろうとして、同調させようとします。

同調だと言って、どこまでも(表層から海底まで同じ速度で軽いコマセでゆっくりと)沈めていくやり方は時間の無駄。今日はもう上から2ヒロで食ってるな、と思ったら、そのタナでただ流せばいい。そのタナへ仕掛けを落とすだけ。途中のタナをゆっくり通過するのは不要。

要は、極端な話、タナさえ合っていれば、撒き餌(コマセ)は海底に落としておけば良い。

「帯」について、少し補足します。撒き餌は海中で溶け、その粒子と匂いが潮に乗って流れていきます。この流れを「帯」と遠矢流では表現しています。

ただし、注意してください。これは宙層をふわふわと漂う帯のことではありません。遠矢流の帯は、海底に打ったコマセの「点」から発生する帯です。海底のコマセの山から、溶け出した粒子が潮下へとたなびいていく――煙突から流れる煙を思い浮かべてもらうと近いと思います。煙突(コマセの山)は動かず、煙(粒子の帯)だけが潮下へ流れる。

だから、タナも自然と決まります。帯の発生源は海底にある。クロダイの食うタナも、底近くになる。「タナさえ合っていれば」とは、そういう意味です。

クロダイの回遊層(タナ)は、基本的には底ベタです。ただし、海底に何か異変があるとき――たとえば底の水温が低いとき、岩場がゴロゴロしているときなど――は、タナが少し上ずります。そういう日に釣れるのは、底から30センチほど切ったタナだったりします。「黒鯛は底を釣れ」という格言もありますが、その日のタナを推測して、わずかな上下を合わせていく。それがタナ取りです。

その帯と、その発生元となる場所に付け餌があること。

撒き餌の帯の中に(またはその帯の発生源である、コマセの山の付近に)、付け餌がある。それだけでいい。速度を合わせる必要も、上から下までくまなく沈める必要もない。クロダイが食っているタナで流せばいいだけの話だ、と。

一見たやすそうに聞こえますが、コマセのスピードとつけ餌を同調させ、それを上層から海底までくまなくゆっくり落として釣ろうとする――これは、実は簡単なことではありません。名人は、こう続けます。

確率、低いよね。

【現場から】山川港の根がかり事件

同調が「頭の中の話」であることを、これ以上なく証明してしまった一日があります。名人が実際に目撃した光景です。

場所は山川港。足元で水深27メートルあります(名人がリールの回転数で実測しました)。沖合は、漁師の魚探によれば70メートル。かなり深い釣り場です。

そこで、ある釣り人が釣っていました。自分の仕掛けは撒き餌の中に入っている――そう信じて、じっと待っています。しかし、いつまでたっても釣れない。

しばらくして仕掛けを上げてみると――足元に根がかっていたのです。

なんでそんなところに根がかるのって。

沖に投げたはずの仕掛けが、いつのまにか足元まで戻ってきていた。

なぜ、足元に戻ってしまうのか

理由は物理です。

道糸が出ていかないから、どんどん引き寄せて(手前に来る)。

餌の重みで海中に沈もうとするけれど、潮が流れていないので、仕掛けは沖に行かず竿の真下にくる。だから仕掛けは、竿先を支点とした円弧を描いて、ゆっくりと竿先の真下へ戻っていくのです。振り子と同じです。

その状態でそのまま置いとくと、だんだんだんだん手前の方に来て、まあ垂直になっちゃうよね。竿先を支点にして垂直になる。

その間、撒き餌はどうしているか。

撒き餌はずっと潮に乗って、沖へ沖へと流れていって。そこで魚はバクバク食ってるんだろうけど。

撒き餌は沖。仕掛けは足元。これ以上ないほど、離れています。

でも本人の頭の中では、それと同調してると思ってるんだけど。だって、なんで足元に根がかるの? 同調してないっていうのは分かるでしょう、っていうことですね。

これが証明です。理屈でも、理論でもありません。ただの事実です。仕掛けが足元にあった。撒き餌は沖にあった。それだけのことです。

遠矢流のコマセワークで釣れた大型クロダイをタモに収めた遠矢国利名人
名人の釣果。大型クロダイ

潮が止まると、なぜ食わなくなるのか

同調の話をしていると、名人はもう一つ、面白いことを言い出しました。

潮が止まると、ピタッといなくなっちゃうんだよね。いくら撒き餌をやっても、潮が止まってる時は食わない。

多くの釣り人が経験していることだと思います。なぜ、食わなくなるのか。

不自然なんだろうね。なんか、餌っていうのは、潮上から潮に乗って流れてくるものだって、(魚は)もう教わってるわけですから。潮が止まってるのに、ここに餌が流れてくるわけないって。本能的に知ってるわけだ。

岩盤についている貝などを除いては、基本的に潮に乗って流れてくるものを食べていた。だから潮が動いていないのに、餌が流れて来るのは不自然なのではないでしょうか。

この本能があるからこそ、クロダイの動きには道筋があります。

やがて餌がなくなると、再び潮下にもどり、撒き餌の匂いの帯をたどって、潮上の撒いたコマセへたどりつく。

クロダイは潮下にいて、流れてくる匂いを嗅ぎつけ、潮上へとたどってくる。やがて餌がなくなると、また潮下にもどる。これを繰り返す。この習性を、遠矢流は利用します。

――が、その話は第二部に譲ります。

春に釣れた人は、なぜ夏に釣れなくなるのか

さて。同調が成立するのは、メジナやクロダイが上ずってくる3月から6月いっぱい。では、その季節が終わったとき、何が起こるでしょうか。

名人の観察は、静かですが痛烈です。

その同調を強調してる人っていうのは、割と夏になって、(釣れなくなって)いなくなる。釣れなくなっちゃうから。だから春以外はクロダイ釣りをやめちゃうでしょう。やめるというか、ボラ釣りとか、バリ(アイゴ)釣りとか、他の釣り方に変更する。そうやって理論を守ろうとしている。

理論を守るために、獲物を変える。

これは、責めているのではありません。理論が正しいと信じている以上、そうするしかないのです。同調で釣れないなら、同調で釣れる魚を探すしかない。夏以降クロダイが釣れないのは、腕のせいでも理論のせいでもなく、そういう季節なのだ――そう考えるしかない。

なぜ夏に釣れなくなるのか。

同調する人たちは、基本的に軽いコマセ中心だから、それにつけ餌を同調させてる間に、餌取りにやられちゃうんだ。

軽い撒き餌に、軽い刺し餌。ゆっくり、ゆっくり沈んでいく。いや、沈まないで浮いていることもある。その間に、餌取りが群がってくる。夏の海には、餌取りが山ほどいます。

結局、餌取りに弱いよね。大体もう(付け餌が)すぐやられちゃう。

そして近年は、そこに加工された人工的な付け餌を使う流れも出てきました。それでも、事情は大きくは変わりません。

では、なぜ遠矢流は夏でもクロダイが釣れるのか

ここまでが、名人の思う「同調」の姿です。整理すると、こうなります。

  • 理屈は合っている――撒き餌と同じ帯にあれば、警戒せずに食う
  • 成立する条件は限られる――メジナ・3〜6月・春にはクロダイも上ずってくる時
  • 上層からゆっくりと海底まで沈めようとする同調は時間の無駄――クロダイが食っているタナで流せばいい
  • 確率は低い――上層から海底までくまなく探り、かつ広い海の中でコマセとつけ餌を同じスピードで落として魚に探させることは、確率が低い。再現性も低い
  • 夏になると、餌取りに負ける――軽い撒き餌に軽い餌では勝てない

では、遠矢流はどうしているのか。

なぜ、餌取りだらけの9月に、水深15メートルの海で、大型のチヌを何枚も上げてこられるのか。

実は、遠矢流にも「同調」があります。ただし、まったく違う意味の同調です。

――第二部:遠矢流の「同調」― 餌を揃え、海底に牧場を作る に続きます。

※本記事は、遠矢国利名人への聞き取りをもとに構成しています。特定のメーカー・釣法・個人を批判する意図はありません。