風が吹くと釣りにならない? ―「風潮」は釣り座選びで克服できる

こんな日、ありませんか

午前中はウキがまっすぐ立っていたのに、午後になったら急に斜めになり、スルスルと滑るように流れ出す。道糸はフけ、直しても直してもまたフける。撒き餌と仕掛けはどんどん離れ、もう釣りにならない――。

強風の日、特に雨上がりや春先に、こんな経験をした人は多いはずです。多くの釣り人は「今日は風が強いから」と諦めて帰ってしまう。しかし、その正体を知り、釣り座さえ選べば、風の日でも釣りは成立します。

遠矢名人が長年の実釣の中で名付けた、この現象――「風潮(かぜしお)」の話です。読みは「フウチョウ」ではなく「カゼシオ」。潮を読む釣り人の言葉です。

「風潮」とは何か

まず正直にお伝えすると、「風潮」という言葉は、釣りの教科書には載っていないかもしれません。遠矢名人が自身の経験からそう呼んでいる言葉です。

しかしこれは、机上で考えついた造語ではありません。半世紀にわたる実釣の現場で、何百回、何千回と繰り返し観察してきた現象に、名人が名前を与えたものです。この理論に異を唱える釣り人も少なくありませんが、それはたいてい、現場でこの現象とじっくり向き合った時間が足りないだけ、というのが名人の実感です。理屈ではなく、海の上で確かめ続けた者だけが掴める話なのです。

おさらい ― 上と下で潮が違う「二枚潮・三枚潮」

風潮を理解する前に、「潮は層によって違う動きをする」という前提を押さえておきます。

沖の鯛釣りで、オモリを落として底のタナに近づくと、まっすぐだった道糸がぐっと斜めになることがあります。これは上(船のいる表層)と底とで、流れの向きが違うために起こる現象――二枚潮です。

さらに水深100メートル立ちでアジを狙うと、仕掛けが最初は左へ、途中から右へと向きを変えることがあります。これは表面・中間・底で、それぞれ潮が違う流れをしている状態――三枚潮です。原因は水温差や塩分濃度の違いで、それぞれの層が”勝手に好きな方へ”流れていく。

そして「風潮」は、この現象のいちばん表面で起きる版だと考えると分かりやすいと思います。

なぜ風潮では釣れないのか

風潮は、風が水面の”表面だけ”を押して流す現象です。

水面をよく見ると、風でザワザワと立ったさざ波が、ウキをどんどん追い越していくのが分かります。表層だけが動いているのです。このときウキは、斜めに傾いたまま、風と同じ方向へ流されていきます

厄介なのは道糸です。道糸も水面近くにあるため、表層と一緒にどんどんフけていく。修正しても修正してもすぐフける。結果、沈んでいる撒き餌の位置から、仕掛けだけがどんどん離れてしまう。これでは撒き餌と刺し餌が一致せず、釣りが成立しません。これが「風潮で釣れない」理由です。

【重要】ウキの斜めは「二枚潮」とは限らない

ここが、経験を積んだ者とそうでない者を分ける、いちばん大事なポイントです。

ウキが斜めに傾いていると、つい「二枚潮だな」と思ってしまいます。しかし――傾きの原因は、二枚潮(密度の違い)だけではありません。風潮(風)でも、ウキは斜めになります

密度の違いによる「二枚潮」のしくみは、「二枚潮は塩水が浮いている」は物理法則を無視した俗説で詳しく解説しています。あわせて読むと、ウキの傾きの”二つの原因”がはっきりします。

しかも風潮の場合、潮そのものは動いていないこともあるのです。潮は止まっているのに、風が表面だけを押しているせいでウキが傾き、流れている”ように見える”。原因を取り違えると、対策もまるで的外れになります。だからこそ、その傾きが「潮」によるものか「風」によるものかを見抜く目が要る。ここが釣果を分けます。

✕と○ ― 風潮の見分け方

見分ける鍵は、風の向きと、ウキの流れる向きの関係です。

✕(風潮・釣れない)
風の吹く方向と、ウキの流れる方向が同じ。風に押されて、ウキが斜めのまま風下へ流されていく状態。これが風潮で、いちばんまずいパターンです。

○(正常・釣れる)
風は吹いているのに、ウキは風に向かってゆっくりと進む。これは正常な状態で、撒き餌の位置をほんの少しずらすだけで、ちゃんと釣れます。

同じ「斜めのウキ」でも、風とどちらへ流れるかで、天と地ほど意味が違うのです。

風潮の見分け方の図。ウキの傾きが同じでも、風とウキの流れる向きが同じなら釣れない(✕)、風に向かうなら釣れる(○)。
風潮の見分け方 ― 同じ傾きでも、風とウキの流れる向きが同じなら✕(風潮・釣れない)、風に向かうなら○(正常・釣れる)。

なお、時々風と潮が同じ方向へ流れていることもあり、そこは判断が難しいところです。その場合も撒き餌と刺し餌が一致しにくいので、無理に粘らず釣り座を変えるほうがいいでしょう。

対策 ― 釣り座選びで克服する

名人は動画で「風潮が来たら逃げなさい」と言います。ここで言う”逃げる”とは、諦めて帰ることではなく、釣れる釣り座へ移ること。その具体策が、これから紹介する釣り座選びです。

風潮は、仕掛けをいじって直せるものではありません。釣り座(ポイント)の選び方が基本です。そのうえで、打てる手は三つあります。

① ウキがまっすぐ立つ場所を探す
防波堤の先端などで、外側の潮と内側の潮がぶつかり合う場所を探します。二つの流れが打ち消し合うところでは、風の影響をほとんど受けず、ウキがまっすぐ立ちます。こうなれば、撒き餌が仕掛けと同じ深さまでまっすぐ届く。手前に来たり、左右にゆっくり動いたりはしても、風に振り回されない一点――そこが狙い目です。

② 背中から風を受ける釣り座に移る
まっすぐ立つ場所が見つからなければ、思い切って場所を大きく変えます。ポイントは、背風(せかぜ)=背中から風を受ける釣り座を選ぶこと。横風では表層の道糸も流されますが、背中から風を受ける位置なら、風潮の影響をぐっと抑えられます。

③ ウキ下を深くする
二枚潮や風潮のとき、仕掛けは斜めになって中層を漂う形になってしまいます。そこでウキ下を下げてやると、調整ガン玉の位置が深くなり、自然につけ餌が底に届く。底まで届けてやることで、クロダイが食いつく確率がぐっと高くなるのです。

風潮が特に強く出る条件

次のような条件では、風潮が強く現れます。頭に入れておくと、事前に釣り座を組み立てられます。

まず、極表面の水温が上がったところに風が吹いたとき。温まった薄い表層が、風で動きやすくなります。次に、雨上がり――特に大雨のあとは顕著です。そして河口付近。川の水と海水は流れがまったく違うため、二枚潮的な層構造ができやすく、風潮と似た状態になります。春先も要注意で、佐渡島などでは「午前はまっすぐ立っていたウキが、午後にはスルスルと表面だけ流れて釣りにならない」ということが実際に起こります。

経験が生んだ言葉

繰り返しになりますが、「風潮」は名人が机の上で考えた理屈ではありません。海の上で、風向きと潮の流れとウキの動きを見続けた末に掴んだ、経験の結晶としての言葉です。

同じ「斜めに流れるウキ」を前にして、それを二枚潮と片付けるのか、風潮と見抜いて釣り座を変えるのか。この差は、知識の量ではなく、現場でどれだけ真剣に海と向き合ってきたかで決まります。風の日に諦めて帰るのか、それとも一枚を手にして帰るのか――その分かれ道に、この「風潮」という視点は必ず効いてきます。

まとめ

  • 風潮=風が水面の表面だけを押して流す、名人命名の現象
  • ウキが斜めになるのは二枚潮だけでなく、風潮でも起こる(潮は止まっていることも)
  • 見分けは風の向きとウキの流れる向き:同じ向き=✕(風潮)、風に向かう=○(正常)
  • 克服法は釣り座選びが基本:①潮がぶつかりウキが立つ場所、②背風の釣り座、さらに③ウキ下を深くする
  • 雨上がり・河口・春先・表面水温上昇+風で特に強く出る

風は、釣りを邪魔する敵とは限りません。その正体を知り、立つ場所を選べば、風の日もまた釣り座になります。

動画で見る ― 名人みずから解説

この「風潮」を、遠矢国利名人みずからが図を描きながら解説しています。あわせてご覧ください。動画の詳しい紹介ページは 「風潮って何?」遠矢国利名人の解説講座 をご覧ください。