遠矢流の「同調」― 餌を揃え、海底に牧場を作る【第二部】

遠矢流にも「同調」があった

第一部では、世に言う「同調」――撒き餌と刺し餌の動きを合わせる考え方――が、いつ成立して、いつ成立しないのかを見てきました。

では、遠矢流はどうしているのか。名人に聞くと、意外な答えが返ってきました。

うちにも同調はあるよ。コマセに使うオキアミと、同じオキアミを付け餌にする。それが同調。

動きを合わせるのではありません。餌そのものを一致させる。

考えてみれば、理にかなっています。海の中で、撒き餌の粒と針の一粒の「速度」を合わせ続けることは、人間には制御できません。潮は層ごとに違う動きをしているからです。しかし、「同じ餌を使う」ことなら、確実に実行できます。

クロダイの目の前に、コマセと同じオキアミが流れてくる。まわりに散っているものと、針に付いているものが、同じ。だから不信感を与えない。

制御できない「速度」ではなく、確実に揃えられる「餌」。撒き餌とつけ餌をあわせる。これが遠矢流の同調です。

だから、コマセの混ぜ方が違う

この同調を成立させるために、遠矢流はコマセ作りの段階から他と違うことをしています。

まず、付け餌用のオキアミは、最初に取り分けておきます。コマセに使うオキアミと同じもの――特別な加工オキアミのパックではなく、撒くものと同じオキアミ――を、混ぜる前に取り分けて、餌箱に入れておく。

コマセと同じオキアミを取り分けた付け餌用の餌箱
付け餌用のオキアミは、最初に取り分けておく

そして残りをコマセに混ぜるのですが、ここにもう一つ、大事な流儀があります。

オキアミの形を、残したまま混ぜる。

コマセをぐちゃぐちゃに練って、オキアミの原形がなくなるまでミンチにしてしまう人もいます。しかし遠矢流では、オキアミの姿を保ったまま、集魚材に優しく馴染ませていきます。

オキアミの形を残したままコマセを優しく混ぜる遠矢国利名人の手
オキアミの形を残したまま、優しく馴染ませる

できあがったコマセを見てください。オキアミが、一尾ずつ原形をとどめています。

オキアミが一尾ずつ原形をとどめた遠矢流の完成コマセ
できあがったコマセ。オキアミが原形をとどめている

海底に届くのは、この姿のオキアミです。そして針に付いているのも、同じオキアミ。海の中で、撒かれたものと針のものが、同じ姿をしている。これが「餌を揃える」ということです。

形まで揃える

名人の徹底ぶりは、さらに先へ行きます。

コマセを練って、もしオキアミが崩れて尻尾だけ残ったのばかりになったら、付け餌も尻尾だけを針につける。頭だけになったら、頭だけを針先につける。

尻尾には尻尾を。頭には頭を。

海底のコマセの山に、尻尾ばかりが転がっているなら、針に付けるのも尻尾。クロダイから見て、違和感のあるものにしてはいけないからです。

「同じ種類の餌を使う」という話ではありません。その日、その海に撒かれている”その状態のもの”と、同じものを針に付ける。そこまでやって、遠矢流の同調です。

オキアミでなくても、成立する

この考え方は、オキアミに限った話ではありません。名人には、まだ誰にも知られていなかった頃の、こんな経験があります。

サヨリを釣るために、イワシをミンチにして撒いていたときのことです。足元には、すり潰されたイワシの粒がいっぱいこぼれている。

まわりの釣り人は、わざわざイワシを買ってきて、三枚におろして短冊にしたり、縫い刺しにしたりして、針にぶら下げていました。

魚は全然食いつかない。俺のは、入れたらすぐ食いつくわけ。何が違ったの? 要は、みんなが撒いてる餌と同じ餌を刺し餌にした。ぐちゃぐちゃの、擦りつぶしたイワシ。

きれいな短冊には食わない。撒かれているのと同じ、ぐちゃぐちゃのイワシには、入れた瞬間に食う。

海に流れているものと、針に付いているものが同じかどうか。魚が見ているのは、そこだけです。

米粒の餌と、小さな針

ぐちゃぐちゃに擦りつぶしたイワシを、どうやって針に付けるのか。付けられる量は、米粒ほどしかありません。

大きい針だと、針のフトコロにちょびっとしか付けられない。米粒ぐらいの大きさで食わせなきゃいけないから。袖針じゃ伸ばされちゃうし。それで行き着いたのが、チヌカワハギの小。チヌ鈎の0.5号ぐらいの小さな針だけど、強いんだよね。あれでどれだけ釣ったかわからん。

米粒の餌には、米粒に見合った針。小さくても、伸ばされない強さのある針。

餌を揃えるという考え方は、こうして針の選び方にまでつながっていきます。(「付け餌は大きい方がいいのか」「針は大きい方がいいのか」――この話は、いずれ別の記事で詳しく取り上げます。)

海底に「牧場」を作る

さて、餌を揃えたうえで、遠矢流はそのコマセをどうするのか。

第一部で触れたとおり、遠矢流はコマセを宙層に漂わせません。比重の重いコマセを、塊で、海底に落とします。

すると、海底にコマセの山ができます。点として打てば山に、打ち続ければ帯状に。この山から、粒子と匂いが潮に乗って潮下へたなびいていく――煙突から流れる煙のように。

この、海底にできたコマセの山を、私たちは「チヌ牧場」と呼んでいます。

なぜ牧場なのか。クロダイの習性を思い出してください。

クロダイは潮下にいて、流れてくる匂いを嗅ぎつけ、潮上へとたどってくる。コマセの山にたどり着き、しばらくその周辺に滞在する。餌がなくなれば潮上へ行き、匂いの帯が消えれば、また潮下へ戻る。そして帯を見つけて、山へ帰ってくる。

チヌの回遊ルートとコマセの帯の図。海底のコマセの山から帯が潮下へ流れ、クロダイが帯をたどって山へ帰ってくる
チヌの回遊ルートとコマセの帯。クロダイは帯をたどって山へ帰ってくる

山がある限り、クロダイはそこへ帰ってきます。餌を撒いた場所そのものが、クロダイの集まる「場」になる。だから牧場です。

そして、釣り座は動きません。

自分が撒いた餌が、そのままポイントになる。だから一日中、同じ場所に座って釣れる。

魚を探して歩き回るのではなく、魚が帰ってくる場所を、自分の竿の届くところに作る。ポイントは探すものではなく、作るもの――これが遠矢流の釣りの組み立てです。

重いコマセは、餌取りに強い

この「重いコマセで海底に山を作る」やり方には、もう一つ、大きな利点があります。

第一部の最後で見たとおり、軽いコマセに軽い付け餌を合わせるやり方は、ゆっくり沈む間に餌取りにやられてしまいます。夏の海では、それが致命傷になる。

遠矢流のコマセは、その逆です。重い塊は、餌取りの層を素早く通過して、海底まで届きます。宙層でバラけて餌取りの餌になる量が、そもそも少ない。

重い団子だから、水温が低くて食いが悪い時でも釣れるし、餌取りの多い時期でも釣りになる。

春に釣れて、夏に釣れなくなる釣りと。一年を通して、同じ場所で釣り続けられる釣りと。その分かれ目は、コマセの重さにありました。

9月7日、水深15メートル

理屈は、ここまでにします。あとは結果を見てください。

9月7日、餌取りの多い初秋に水深15メートルでチヌ牧場が寄せたクロダイとメジナの釣果
9月7日・水深15メートルの釣果

9月7日。初秋。餌取りがもっとも多い時期。水深15メートル。

「夏以降はクロダイは釣れない」と言われる季節に、チヌ牧場はこれだけのクロダイを寄せました。

両手に大型クロダイ2枚を掲げる遠矢国利名人
両手に大型クロダイ2枚

コマセと同じオキアミを針に付け、重いコマセで海底に山を作り、クロダイが帰ってくるのを、同じ釣り座で待つ。

やっていることは、それだけです。

まとめ ― 二つの「同調」

  • 世に言う同調は、動きを合わせる。しかし潮は層ごとに違う動きをしていて、人間には制御できない
  • 遠矢流の同調は、餌そのものを揃える。コマセと同じオキアミを、最初に取り分けて付け餌にする。これは確実に実行できる
  • オキアミの形を残したままコマセに馴染ませる。崩れたら、崩れた形に付け餌も揃える
  • 比重の重いコマセを塊で海底に落とし、チヌ牧場を作る。クロダイは匂いの帯をたどって、山に帰ってくる
  • 重いコマセは餌取りの層を素早く通過する。だから一年を通して釣りになる

同調という言葉を使うなら、問うべきはこれだと思います。

あなたが同調させたいのは、制御できない「速度」ですか。それとも、確実に揃えられる「餌」ですか。どちらに再現性があるでしょうか。

答えは、海が出してくれます。

第一部:「同調」すれば釣れるのか ― 名人が認める条件、認めない条件 はこちら)

※本記事は、遠矢国利名人への聞き取りをもとに構成しています。特定のメーカー・釣法・個人を批判する意図はありません。