「大潮は釣れる」は本当か 〜名人が狙う潮回り

名月ですら、満月とは限らない

今年の中秋の名月は、9月25日です。

ところが、天文学でいう満月は、その2日後の9月27日。名月と満月が、2日ずれています。旧暦の数え方と、月が地球から見て太陽の反対側に来る瞬間とでは、基準が違うからです。

お月見の月は満月、と思っていた方も多いのではないでしょうか。月にまつわる当たり前は、案外あてになりません。

満月に照らされた夜の海。水面に月光の帯が伸びている
満月の夜の海。この明るさの中で、魚は何をしているのでしょうか

そして満月の前後には、大潮が来ます。

釣りの世界では昔から、こう言われています。

「大潮は釣れる。」

潮がよく動くから魚の活性が上がる。そういう理屈です。では実際のところ、どうなのでしょうか。

名人に聞いてみました

「大潮のときほど釣れないです。逆に小潮とか若潮とか、潮回りが小さい方が。」

返ってきたのは、逆の答えでした。理由は、狙っている場所にあります。

「とにかくターゲットが湾の奥なんですよね。湾の奥っていうのは、大潮回りはあまり潮が流れないんですよ。で、逆に沖の方は早すぎてダメなんですよね。だから大潮っていうのは、あまり釣りには向かないです。」

大潮なのに、湾の奥は流れない。少し意外に聞こえるかもしれません。

湾の奥で、何が起きているのか

「大潮の時は、湾の出入り口あたりは潮が早すぎて釣りにならない。で、逆にもう早すぎて、今度通り過ぎていって、中が全く流れない状態になるんですよね。」

湾の出入り口を、潮が勢いよく通り過ぎていく。その結果、湾の中には潮が入ってこない。速すぎることが、かえって潮が入りづらく停滞を生むというわけです。

ここで思い出していただきたいことがあります。

「潮が止まると、ピタッといなくなっちゃうんだよね。いくら撒き餌をやっても、潮が止まってる時は食わない。」

「同調」すれば釣れるのか 〜名人が認める条件、認めない条件 より)

魚にとって餌とは、潮に乗って潮上から流れてくるものです。潮が動いていないのに餌がそこにあるのは、自然界ではありえない光景になる。だから食わない。

つまり大潮の湾奥は、もっとも食わない条件が揃った場所ということになります。

では、潮回りが小さいときは

「小さい潮回りの時は、適当に潮の出入りがあって、ちょうどいいぐらいに。釣りにもちょうどいい。魚も警戒しないで。潮の流れない時は魚は餌を食べないという、ちょうど餌を食べやすい流れになるんですよね。だから潮回りが小さい方がよく釣れるということなんですよね。」

適度な出入り。魚が警戒しない流れ。餌を食べやすい速さ。大潮の「速すぎて、結果として止まる」の正反対です。

私自身の記録から

ここからは、私(さち子)の話をさせてください。

いちばんよく釣れているのは、長潮と若潮です。潮の動きがもっとも小さいとされる潮回りです。

長潮の日に釣れたクロダイが岸壁いっぱいに並べられた釣果写真
鹿児島県片浦港、初夏。長潮の日の釣果(午前中の分)

写真は、鹿児島県の片浦港で、初夏の長潮の日に釣ったものです。三人でクロダイ90枚。その8割が50センチオーバーでした。

しかもこれは、午前中の分だけです。ストリンガーが満タンになったので、一度並べて撮っておこうと撮影したもので、午後も同じだけ釣れました。

日付は忘れてしまいましたが、潮回りだけは覚えています。長潮でした。

名人にそのことを尋ねると、こう返ってきました。

「取材した時も、なんか爆釣した時っていうのは、大体潮回りが小さい時よね。若潮とか長潮とかだよね。これもやっぱり実績から出した答えなんですよね。」

理屈から導いた答えではありません。何十年も通って、釣れた日を記録して、あとから見えてきたものです。

ただし、ひとつ注意があります。これは鹿児島での実績です。鹿児島は全国的に見ても水深が深い釣り場が多く、地形の条件が関わっている可能性があります。潮回りの評価は、その土地の地形によって変わるかもしれません。

昔から言われていること

もうひとつ、釣り場で語り継がれてきた経験則があります。大潮のあとの中潮がよく釣れる、というものです。

「昔からね、僕の先輩なんかもよく言ってたんだけど、なぜかっていうのははっきり分かんないんだけど。多分、満潮が2回あるんじゃないかなという感じですね。一日、朝と夕方に満潮があるとか。それが大潮後の中潮じゃないかな。ちょっと調べてみなきゃ分からないけど。とにかく実績として、大潮前よりも後の方がよく釣れるっていうのは、ずっと昔からね、そういうデータがあるんですよね。」

理由はわからない。でも、実績はある。

名人がこう言うところが、私は信用できると思っています。わからないことをわからないと言ったうえで、記録は記録として残している。同じ中潮でも、大潮の前と後では違うという細かさも含めて、通い続けた人だけが持っている感覚です。

大潮の日は、行かない方がいいのか

ここまで読むと、そう思われたかもしれません。ですが、そうではありません。

「止まってる潮が動き始めた時は、一番のチャンスですね。潮の流れ始めで、早くもない遅くもない。それ、あんまり早くなると釣れなくなるし、またそれが終わって止まってしまっても釣れなくなるから。潮の動き始めっていうのは見逃せない。」

大潮といっても、一日中ずっと速いわけではありません。止まった潮が、ゆっくりと動き出す瞬間がある。速くもなく、遅くもない、あの時間帯です。

「大潮といっても全く動かないことではない。止まって動き始めというのは、ゆっくりと動き始める。その時がチャンスなんですよね。」

そしてもうひとつ、通説をひっくり返す話が出ました。

「特に干潮時はダメだっていうけども、干潮時ほど大物が釣れることが多いんですよね。潮が動き出した、それ食えって言った時に、ちっちゃいやつよりも大きいやつの方が、餌を探すのが得意ですからね。」

干潮は釣れない、と言われます。しかし名人の実感は逆です。しかも理由が面白い。大きい個体ほど、餌を探すのが上手い。だから動き出した瞬間に、まず大物が反応する。

満月の夜、魚は何をしているか

さて、名月の話に戻ります。満月の大潮が釣れないのには、潮とは別の理由もあるようです。

「月明かりの明るい、大潮の満月みたいな潮の時は、餌をたくさん食べてると思うんですよね。だから日中釣りをしようと思っても、もう満腹の状態で、多分餌を食べなくなってるんじゃないかと思うんですよね。」

明るい夜のあいだに、魚は食べている。だから昼間は腹がふくれていて、食わない。では逆はどうか。

「逆に暗い、闇夜の場合は逆、釣れますよね。大潮でもね。だから夜中に明るいと、魚はお腹いっぱい食べてるから、もう昼間は食わないという結論です。」

同じ大潮でも、満月と闇夜では結果が分かれる。

見るべきは潮回りの名前ではなく、その夜、魚が食べていたかどうかだ、ということになります。

最後に、話がひっくり返ります

ここまで、大潮には厳しい話が続きました。ところが、です。

「長年やってるとね、大潮でないと釣れないっていう場所もたまにあるんですよね。そういうところを狙っていきます。」

どんな場所でしょうか。

「湾の奥じゃない、中途半端なところ。あと岬の先端とか、湾の奥にならないところね。岬の先端を過ぎるともう早すぎてダメだから。ちょうどそういう、ちょうどいい流れになる場所が必ずあるんですよ。大潮でないと釣れない、小潮だと釣れないという場所がたまにあります。」

湾の奥でもなく、岬の先端の激流でもない。その中間に、大潮のときだけちょうどよくなる場所がある。

大潮の干潮で姿を現した岩場に立ち、クロダイを取り込むさち子さん
この岩場は、大潮の干潮でなければ水面から出てきません。つまり大潮でなければ、釣り座そのものが存在しない場所です

上の写真の釣り場が、まさにそれです。フジツボと海藻に覆われたこの岩場は、ふだんは水の下にあります。大潮の干潮のときだけ姿を現す。潮が良いから釣れるのではなく、その潮のときだけ、そこに立てるというわけです。

「そういうところをちゃんと頭に入れておけば、釣り場には困らないと思いますよ。」

結局、名人の答えはいつも同じ形をしています。潮が良いか悪いかではなく、その潮のときにちょうどよくなる場所を知っているかどうか

では、その場所はどう見つけるのか

では、その場所はどうやって見つけるのか。いちばん知りたいことを尋ねてみました。

「ある程度、地形を見れば見当がつく場所もあるんですけど、やっぱり長い間その場所に通うということが大事ですよね。同じ場所にずっと通ってて、あ、なんで釣れないのかなと思ったら、わあ大潮だ、と。この間、大潮だったあそこで釣れたな、とか。そういうのがだんだん記憶に残ってきますから。パッと、大潮だとあそこっていう場所が見つかると思うんです。」

裏ワザはありません。

なんで今日は釣れないんだろう。あ、大潮か。そういえばこの前の大潮は、あそこで釣れたな。その積み重ねが、いつか「大潮ならあそこ」に変わる。

半世紀分の、その繰り返しが、今日の答えになっています。

潮回りの一覧は 釣り用語辞典 にまとめています。大潮、中潮、小潮、長潮、若潮。それぞれ昔からの呼び名です。

今年の名月は9月25日、満月は27日。その頃、海は大潮を迎えます。

大潮の干潮で潮が引いた浜で、熊手を持ってしゃがむ遠矢国利名人
大潮の日の名人。竿ではなく熊手を持っています。干潮で釣りができない時間帯は、磯遊びも楽しいもの。

ちなみに大潮の日、名人が何をしているかというと、こういうこともあります。潮がよく引くので、貝を掘るにはこれ以上ない日和です。

月を見上げるのは、ぜひどうぞ。ただし、釣れるかどうかは別の話です。

満月の魔力に 釣り人だけがかかって 魚はかからない

※本記事は、遠矢国利名人への聞き取りをもとに構成しています。潮回りと釣果の関係は釣り場の地形によって変わります。特定の釣法・個人を批判する意図はありません。