遠矢国利
タナ取りの難しさが面白さの秘密
どこの海にでもいるクロダイだが、この魚をハリに掛けて釣るのは、けっこうむずかしい。とりわけ、その日、その釣り場によって、泳層つまりタナが微妙に変化することがあるからだ。クロダイの乗っ込み期である3月から6月にかけて、竿2〜3本ほどの水深のある釣り場でも底でしか食ってこないかと思うと、水深10メートル以上の場所で2ヒロ(約3メートル)ほどで入れ食いになることもある。
過去の記録の中からいくつか例をあげると、瀬戸内海の宮島周辺のように、いくら沈みの速い重いコマセ(マキエサ)を打っても、クロダイが浮いてしまって、底では数がでない場所がある。その一方、3日で140尾という記録的な大釣りをしたときは、一日中軽いパン粉などをまいても、水深14メートルの底から魚はまったく上がってこなかった。
また、わずか5センチのウキ下の違いで、一人はひと流しごとにヒットするのに、相棒はエサも取られない、ということもある。
九州や瀬戸内の一部では、干満の差が3メートルにもなる。だから、いったん底ダチをとって(水深を測る)タナを決めても、上げ潮の場合は知らない間に2〜3メートルも上のタナを釣っていることになる。逆に下げ潮では、底から少し上を狙っているつもりが実はベタ底で、運よく本命のクロダイがヒットすることもある。
このようにクロダイ釣りでは、タナ取りが命運を分けることが多い。ビギナーのみならず、ベテランを自称する釣り人でさえ、本当のタナがわからなくなることさえある。それがクロダイ釣りは難しいと言われる根拠であり、面白さ、奥の深さでもある。
正確にタナを取ることが大切
ある日、私が竿を出していると、「ここのクロダイは、ウキ下はどのくらいですか」と聞いてきた釣り人がいた。「水深いっぱいですよ」と答えたら、けげんそうな顔をした。本当は、どうやったら水深いっぱいのウキ下が取れるんですかと、聞いてくれればその方法をお教えしたのだが、そのまま釣り始めたのでかなり経験を積んだ人だと判断して、それ以上のアドバイスは差し控えた。
結局その人は、2ヒロのタナでボラだけを釣っていたが、そのときの水深は5〜6メートルだった。私のスカリには50尾以上のクロダイ、カイズ、それからキビレ、ヘダイも入っていた。正確にタナを取っていれば、かなり釣れたはずなのだが……。日本海では、干満の差が30〜50センチ程度しかないことがある。こんな釣り場ほど、シビアなタナ取りが要求される。一般的には、エサが完全に浮き上がってしまうより、仕掛けが底をはったほうがクロダイが釣れる確率は高い。下げ潮でいつの間にか仕掛けが底をはってしまってクロダイが釣れることはあるが、逆のケースはまれであることを覚えておいていただきたい。
正確なタナ取り法
それでは実際にどうやったら正確な水深が計れるかを説明していこう(ページの下の図参照)。
その前に、円錐ウキ、立ちウキいずれを使用するにしても、オモリ負荷に合わせてウキの浮力調節を行う。そして、ハリスとハリを結び、釣る用意ができたらコマセを打ちながら、水深を計るようにする。このときついでに底の変化、たとえばカケアガリの有無や潮の流れ具合などを確かめていく。
水深の測り方は、まずウキがゆっくり沈む程度のオモリをハリに付ける。私は市販のゴム管を通したオモリ1号(現在は1.5号)を使っているが、ビニール片に4Bか5Bを噛みつけてハリに剌してもよい。
図中のAの状態になったら、ウキ止め糸をリールの方に少し移動させて微調節するが、仕掛けをしばらく流してみて、浅いほうに流れていき、やがてDの状態になるようなら、このままでよい。
Bは、オモリとウキが離れて着水したときにこうなる。潮流が緩いときは、放っておくとウキの浮力で仕掛けは垂直になる。また、潮流が速いポイントでは、Cの状態で放っておくとやはりBのようになってしまう。Cのようになった場合は、明らかに深すぎるので、一気にハリスの長さ以上にウキ下を浅くしてみる*。(*編集部より解説補足*この場合のウキ下とはウキ止め糸を針側へ移動することである。)
Dが理想の状態であるが、潮の干満によってCの状態になったりもするので、たまに水深を測り直してみることも大切である。
いうまでもなく、水深とは海面から海底までの深さのことだが、足下の壁や海草あるいは根の横であろうとも、すべて海底と考えればよい。
問題は、凹凸の激しい場所では、どこを基準に攻めるのがベストか、ということである。つまり、根のてっぺんを底と考えて釣るのか、海溝を底と考えて釣るのかということである。一般的には春から秋は、浅いほうを基準にしたほうが釣果があがり、冬になるとクロダイは深いほうに集まることが多い。
要は、クロダイのいる海底の様子を少しでも多く知った釣り人が勝ち、ということである。自分が釣ろうとしている海底の様子を正確に知り、狙ったポイントで釣りあげてこそ「釣った!」という実感を味わえるし、次の釣行の自信につながる。水面の状態だけからの判断では、たとえ3ヒロのタナでたまたま釣れたとしても、アタリが止まった瞬間に次はどこを攻めればよいか判断ができなくなる。セオリーどおりなら、エサ取りがいなければタナを深くしていくのだが、いったいどのくらいまで深くするのか迷ってしまい原因にもなる。タナボケを起こす原因にもなる。
遠矢釣法でよく誤解されること
底にこだわる私の釣法は、よく誤解されることがある。「竿で5〜6本*も水深のある釣り場でも底を釣るのか?」と聞かれることがある。結論から言えば、それはやらない。しかし、水深をまずは測る。測らなければ何もわからないからだ。そしてそんな釣り場でも3本半までは落としてみる。そこでベラやカサゴばかりが釣れてくるようなら、その近くの沖目や左右の浅い場所の底を狙ってみる。さもなければ竿下のカケアガリや際、場合によっては宙層を釣ったりする。(*本文修正「3〜4本も水深のある」となっているが、遠矢国利自身は竿3本半までは必ず水深を計測する。)
具体的な例をいくつか挙げてみよう。佐渡ヶ島や男鹿半島などは、地磯でも急深な釣り場が多く、季節によっては必ずしも底で釣れない。海底の谷間の宙層で食うことが多い。ましてこの地方の沖磯では、圧倒的に宙釣りが中心になる時期がある。
それでも水深が竿2本以内なら、まず底を狙ってみる。カサゴなど赤い魚ばかりが釣れてくるようなら、水深の目印の糸*(ウキ止め糸のリール側)はそのままにして、別の糸を目印にして少しずつ上へ上へとタナを移していく。
また、浅いほうから深いほうに潮が通しているときは、宙層のほうがよい。逆に深いほうから浅いほうに潮がさす場合には、底か底近くでヒットすることが多いので、ウキ下を一気に深くする。そのため、ウキ止めの糸は2個ずつ計4個を結んでおき、記録用とズレ止め用、もう2個は移動用とそのズレ止め用に使っている*。(現在の遠矢釣法ではウキ止め糸が2箇所になっている。タナを示すものと水深の2箇所である。)
底釣りのときは、4個*(現在は2個)が全部同じ位置にあり、千満の差によって少しずつ移動させることはいうまでもない。それにもう一点注意しておいたいことはハリスの長さである。いつもは2メートルを標準にしているが、宙層で食う地方では、ハリスを4メートルにすることがある。これはタナを広く探る意味と、エサをゆっくり落とし込むためである。ガン玉の位置も当然、潮の速さに応じて調節する。*ウキ止め糸が2箇所になった理由として、仕掛けを投げ込むときに、ガイドに引っかかることが多いため、最小限の2箇所にしている。)
底釣りのときは、4個*(現在は2個)が全部同じ位置にあり、千満の差によって少しずつ移動させることはいうまでもない。それにもう一点注意しておいたいことはハリスの長さである。いつもは2メートルを標準にしているが、宙層で食う地方では、ハリスを4メートルにすることがある。これはタナを広く探る意味と、エサをゆっくり落とし込むためである。ガン玉の位置も当然、潮の速さに応じて調節する。
私が底釣りにこだわる理由
全国各地のクロダイ釣り場でそれなりの釣果を上げるには、ワンパターンのこだわりは禁物である。臨機応変な対応を迫られることがしばしばある。それでも私が底にこだわるのは、通常われわれがクロダイを狙う地磯や堤防、港内では90パーセント以上の確率で、数型ともに底をじっくり攻めたほうが釣果があがるからだ。
この基本的なことを理解したうえで、例外的な方法を覚えたほうが上達が速い。
いずれにせよクロダイは、海底に変化のない場所よりも、凹凸のある所やカケアガリ、沖に根があったり浅くなる所が近くにあるような場所が好ポイントになる。それだけに底の状態を知ること、正確に水深を測ること、そして、どこを攻めるのか、といういくつかの要素が、釣果の明暗を分けることになる。それがクロダイ釣りの難しさと楽しさでもある。(遠矢国利)
(文章は「1993年初めてのクロダイ釣り」の遠矢国利執筆原稿を再編集。解説および写真は遠矢ウキ編集部)