内房の小さな堤防から生まれた遠近自在の「ポイント釣法」

遠矢国利

(1991年出版「海彦・クロダイ&メジナ」より遠矢国利の執筆原稿より。)

自分のコマセでポイントを作る

遠矢釣法とは遠矢ウキを使った釣り方のことであり、その遠矢釣法の基本は「ポイント釣法」と呼ばれているものなのだ。では、ポイント釣法とはいったいどういうものなのか、簡単に言ってしまえば”自分が撒く一投一投のコマセでポイントを作りながらクロダイを釣る釣法“にほかならない。

こう書いてしまえば、そんなのはあたりまえではないかということになるだろう。たしかに、コマセで魚を寄せながら魚を釣り上げる、というのがコマセ釣りの基本ではある。

だが、それまでは、コマセを足下へ撒きながら遠くの魚を寄せるパターンがほとんどであった。コマセを切らさず根気よくつづけることによって、コマセを帯状に漂わせ、魚がその帯を伝って磯近くまで寄ってくるようにする、というわけだ。しかし、機械を使ってコマセを放出する方法をとらないかぎり、コマセを帯状にすることは現実的に不可能だろう。でなかったら、仲問のうちだれか一人が犠牲となってみんなのコマセ係に徹するしかない。

ま、一歩譲ってコマセを帯状に撒くことが可能だとしても、ひとりの釣り人が一つのポイントを攻めるならいいが、そんな理想的な状況はまず期待できない。実際にはたくさんの釣り人のコマセが入り、磯のまわりに幾筋もの帯ができるわけだ。コマセは潮流によって帯状に流れて魚を誘う、つまり魚は潮下から接近してくるのである。ということは、潮下に釣り座をかまえた人が絶対有利ということになってしまう。

クロダイの好奇心を誘う匂い、濁りは、釣り人側でもコントロールできる時代となった。

内房での偶然が発送の原点

ところで、かつて内房・富浦の防波堤で竿を出していた時も、よく釣れている場所には地元の釣り人が座り、夕方の時合を待っていた。せっかくきたのに、竿を出す場所もない。よっぽど場所を移動しようとも考えたが、いまほど釣り場を知らなかったこともあってほかに有望なところも思い浮かぱず、地元の釣り人たちから離れた場所で竿を出すことにした。

しかし、潮は地元ベテランたちのほうへと流れている。こちらは、まるで彼らのためにコマセを撒いているようなものである。あまり悔しいので、半ばヤケクソで仕掛けを20mほど大遠投(当時としては大遠投と呼べる距離だったのである)してやった。

 周囲の釣り人は「あんなところにクロダイがいるもんか、釣りも知らない青二才め……」といった顔でこちらを見る。もちろん、本人も釣れるとは思っていなかったが、はるか遠くのウキがスーツと視界から姿を消した。竿を立てるとググッとたしかな手応え、しかし、あんな遠くでクロダイが食ってくるわけはない、どうせボラだろうと強引にやり取り。周囲の釣り人も「ほうボラを掛けたか」という反応である。が、どうも引きがちがう。やがていぶし銀がギラツと海面下に光ったのである。今度は慎重に浮かせる。どうせボラなのにと笑う釣り人たちの視線を感じながら、玉網入れしたのは2kg弱のクロダイであった。

 釣り人たちが近づいてきて「運がいいねぇ」と声をかける。あくまでも偶然であり、まぐれなのだというわけだ。なるほど、私としても狙って釣ったのではないのだから、たしかにフロックだったかもしれない。しかし、たとえそれがフロックだったにせよ、クロダイが食ってきたということは、何らかの条件が重なり、その場所にクロダイが寄っていたということなのである。

 その条件が何であるのかわからないまま、もう一度、同じポイントへ仕掛けを遠投してみる。またしてもウキが沈み、1kg級のクロダイ。それでも周囲の釣り人たちは「本当に運のいいやつだ」くらいにしか見てない様子。私はウキを使って、今度は水深を測ってみることにした。すると、その近くにわずかながらカケ上がりがあった。そこに釣り人たちのコマセが流れていたにちがいない、と私は推論した。

 一つの偶然から必然を導き出したのである。

 だが、これではまだ本当の必然にはなっていない。潮の流れを計算し、そのカケ上がりヘコマセが届くようにコマセと仕かけを遠投してみると、再びウキが沈む。これで確証はつかめたが、そのうち工サ取りが寄りはじめたのだろうか、途中で工サを取られるようになってしまった。直接ポイントへコマセと仕かけを遠投できればと予想できても、オキアミとアミを混ぜただけのその当時のコマセではダイレクトに投入することは不可能だし、そのコマセがクロダイのいる海底へ沈むのはもっと先になってしまうわけだ。

 おまけに、それまでカケ上がりへ流れていた潮の流れが反対になった。地元の釣り人たちが言うところの“時合“が訪れ、彼らの竿が曲がりはじめたのである。これ以上やってもムダだと悟った私は、そこて竿をたたんだ。

佐渡島でのスナップ。水深のあるこの釣り場では、コマセの粘り具合が重要なポイントである。

配合餌の登場で遠投が可能に

コマセを遠投し、しかも投入地点からさほど流れないところで海底まて沈めることがてきれば、あの場所でクロダイは釣れるという確信があった。どうしたら、20mコマセを遠投できるか、どうしたら早く沈めることができるか、これが課題である。そこで思い出したのが、南房の漁港での経験だった。その漁港堤防では、私がオキアミとアミだけのコマセを入れたバケツを持って出かけると、地元の釣り人たちは釣り座を離してしまうのだ。不思議に思い、その釣り人たちのコマセを観察したところ砂を混ぜているらしいのである。最初はなかなか教えてくれなかったが、やっとのことで「ここはオキアミをたくさん撒くと釣れねぇんだよ」と話してくれた。

そんなはずはないと頑張ってみたが、なるほど、オキアミとアミだけのコマセを撒く私にはせいぜい1枚か2枚なのに、砂にちょっびりオキアミを混ぜたコマセを撒いている地元の釣り人たちは5枚も6枚も釣るのである。「どうして?」とたずねたのだが、だれも理由はわからない。「たくさん撒くとエサ取りが寄るんだよ」と答えた人もいるが、エサ取りが寄るならクロダイだって寄るはずである。おそらく、理由はほかにあるにちがいないのだ。

砂は比重があるから、砂をまぶしたオキアミは早く沈むし、砂のキラキラがクロダイを剌激するのかも知れない。海底へ沈降した砂は濁りを作るだろう。そういえば静岡県の沼津では赤土とサナギミンチを混ぜた団子に剌しエサをくるんで放り込み、クロダイを釣っていた。これも比重と濁りを利用したコマセである。私はさっそく赤土と砂にオキアミを混ぜたコマセを作り、それを富浦の堤防へ持参して釣りはじめた。地元の釣り人たちは捨て石のある際でしかクロダイは食わないと信じ込んでいたから、相変わらず手前の場所はガラ空きである。

私はそこに釣り座をかまえ、コマセと仕かけを遠投した。そして、釣行するたびに入れ食いを味わったのである。

だが、赤土と砂のコマセにも隈界が見えてきた。ポイントの遠近や水深に応じて粘りを出したり、バラケを演出するといった微調整ができないのである。それと、赤土は海底でヘドロ状になってせっかくのポイントを埋め立てることにもなりかねない、との意見も出てきた。そうこうするうち、マルキューから「大チヌ」という配合餌が発売され、これなら公害の心配もなく遠投コマセが作れるとわかった。つぎに登場した「チヌパワー」は粘りを調整できるし、比重もかなりあって、私の攻撃エリアはさらに広がることになった。どこへ行っても、釣り人たちは足元へコマセを撒くから、エサ取りは足元に釘付け、遠くのポイントを直撃すればクロダイが入れ食いというパ夕ーンがつづいた。カケ上がり、海溝、沈み根……クロダイのポイントはいくらでもあった。

チヌパワーの弱点はバラケの調整がしにくいこと、粘りが強くてヒシャクにこびりつきやすいという点だった。これを解消してくれたのが「オカラだんご」だ。「オカラだんご」を混ぜることでヒシャク離れがよくなり、水深に応じてバラケ具合を変えることも可能になった。貝殻が混入されているので、クロダイの好奇心を剌激する効果もあり、また、オキアミがエサ取りに食べられてもクロダイが口にするトウモロコシや押し麦などは、エサ取りたちの層を通過してタナまで届く。

クロダイにしてみれば、磯際や堤防の捨て石まわりまで接近するというのはかなり危険な行動に違いない。釣り人の存在を感じさせず、自分の姿をカムフラージュてきるような濁りやサラシがあればまだしも、ベク凪で潮が澄んているような時なら、遠く離れたところに身を潜そめながら流れてくるコマセを待っていたほうが安全であろう。それならば、そこまてダイレクトにコマセを届けてやればいいわけである。

こぼれたコマセにクロダイが…

ところで、ベタ凪でどうしようもないという状態の時、たまたまコマセがヒシャクからこぼれてしまったことがある。あーあ、今日は竿を出すだけムダかなと諦めつつ、こぼれたコマセの行方を見ていたところ、何かがスツと海底を走ったのである。ボラにしてはおかしいと思いながら、コマセをちよっとだけ落としてみると、またしても何かがスッと寄ってきて、再びいなくなった。

3〜4匹のクロダイが、海底に濁りが生じるたびにスツと寄ってきては、またすぐ安全な場所へと姿を隠していたのである。今度はハリにオキアミを刺していっしょに投入してみたが、剌しエサのオキアミには見向きもしない。けれども、これと同じ状態を遠くのポイントに作ってやったらどうなるだろうか。

私はコマセをなるべく小さく固め、根気よく同じ場所へ遠投しつづけた。それから仕かけをやや遠くへ遠投してその場所まで引き戻してやり、コマセを同じリズムてウキヘかぶせた。すると、ウキがモゾモゾと反応したのである。すかさず竿を立てるとクロダイの引きが伝わってきた。その日は、結局、だれもが諦めている悪条件のなかで1迎級を10枚以上も釣り上げたのである。

こうして「ポイントは自分のコマセで作ることができるのだ」という信念が生まれた。一投一投のコマセでポイントを作り、クロダイを釣る、というこの攻撃的な釣法を「ボイント釣法」と名づけてくれたのはスポーツニッポンのAPCである多岐淳さんである。こうして、富浦での偶然は必然となり、私は新しい釣法を手にすることができたのだ。では、次にポイント釣法のコマセと仕掛けの注意点について簡単に説明することにしよう。

配合餌に必要な8つの条件

すでに述べた通り、ポイント釣法は配合餌なくして語れない。私が使うのはマルキューの「チヌパワー」と「オカラだんご」などであるが、そもそもコマセとはいったい何だろう。私はクロダイを釣るためのコマセに欠かせない8つの条件というものを考えてみた。

①集魚性の高い匂い(ただし臭くない程度)があり、剌しエサの特性を引き立てなければならない

②クロダイは濁りを好む習性があるので、濁りを作る成分が主原料となっている必要がある

③比重があり、しかもバラケもよくなければならない

④クロダイが口にできるもの(押し麦やトウモロコシなど)が入っていること、いわば食欲を誘うための「オードブル効果」を演出できるものがふくまれていなけばならない

⑤ポイントの遠近・水深・潮流のスピードに応じて粘りを調整できる必要がある

⑥ヒシャク離れがよく、コントロールを自在につけられること

⑦他人に迷惑をかけない、つまりイカワタやニンニク(いくら集魚効果があっても!)のような臭いものが混入されていないこと。私は手で練り込んで粘りを調整するが、そういうものを手でこねる気にはなれない

⑧オキアミだけでなく、イソメ類やサナギ、練りエサなどともマッチングするものでなければならない

以上の8つの条件を満たすものとして「チヌパワー」と「オカラだんご」の組み合せがベストマッチングなのである。また、このコマセを有効に使うためにはヒシャクにも工夫が必要だ。(注釈*1991年当時の組み合わせ。現在はこれにマルキュー「日本海」と「ムギコーン」が加わる。)

柄がフニャフニャのヒシャクではとても20m離れたポイントへ正確にコマセを投入することはできないから、私は竹などでヒシャクを自作している。最近は配合餌を遠投しやすいコマセヒシャクも市販されているようなので、それを使ってもいいだろう。

ポイント釣法はコマセのコントロールがカギを握るのである。潮流の方向やスピード、ポイントの水深などにより、投入する場所は変えるが、はじめのうち(わからない時)は自分のウキヘかぶせるよう心がけることだ。

また、釣りはじめる前にポイントとなり得る場所ヘコマセをソフトボール大の団子状にして放り込んでおくと、エサ取りが寄る前に海底にポイントを作ってクロダイを集めることもできる。流れのゆるいところなら、30分から1時間は効果があると思う。団子を放り込んでから仕かけを作り、あとは通常の方法(ヒシャク)でコマセを投入する。エサ取りが多い時はコマセに剌しエサを包み、ウキダンゴ釣法を試みることもある。

1995年当時のマルキューチヌパワーとおからだんご。(遠矢国利撮影)

遠矢ウキとハリスで

ポイント釣法の仕かけは図の通りであるが、ウキは自立タイプの立ちウキ(たとえば遠矢ウキ)をお薦めしたい。というのも、遠投しなければならないし、遠投すれば必然的にウキは見にくくなるからだ。水面トップが出ているウキでないと、小さなアタリはキャッチできないのである。

また、ポイント釣法では誘いというテクニックもあまり必要ない。うっかり誘いをかけると、せっかくコントロールよく投入した仕かけがコマセから離れてしまう。自立タイプの立ちウキであれば適度に潮をキャッチして流れ、しかもミチ糸の抵抗が自然なブレーキを演出してくれる。例外的なパターンはあるが(円錐ウキに比べると誘いを使っても位置が変わららないというメリットがある)、釣り人はなるべくウキヘ不自然な抵抗を与えないように注意すればいいのである。

ハリスはナイロン系を使用しているが(現在はフロロカーボン)、これはできるだけ、ふんわりと剌しエサを落とし込むためである。よく「ハリスを45度の角度に保ってエサを点に見せる」などというが、これは疑問だ。ようするに剌しエサが先に落ちてくれさえしたらいいのであり、そのためにはハリのチモトに極小ガン玉をつけて剌しエサから沈むようにしてやればいいと思う。

浅場でのポイントはほとんど底と思ってまちがいないから、ハリスはさほど長くする必要はないだろう。せいぜい1.5〜2mもあれば充分である。浮力調整のオモリをタナ近くまで一気に沈め、そこからゆっくりと剌しエサを落とし込んてやったほうがエサ取りもかわしやすいし、時間的なロスも少なくてきるはずだ。ただし、水深8m以上の深場ではタナを広く探るために若干長めに(2〜2.5m前後)とることもある。ついでに書き加えておくと、遠矢ウキは状況が許す範囲内て細くて軽いものを使い、つねに感度を優先させるのが基本である。深場ではボディの長いもの、浅場では短いもの、サラシ場や遠投には専用タイプを使ったはうがいい。

まだまだ説明し足りない部分があるが、ポイント釣法の基本となるところはおわかりいただけたのではないかと思う。内房の小さな堤防での偶然から生まれたポイントは、佐渡ヶ島でも男鹿半島でも、若狭湾でも九州でも威力を発揮した。

日本全国どこへ行っても通用する釣法なので、あとはみなさんがアレンジしながらクロダイを釣り上げていただきたい。

(1991年「クロダイ&メジナ」海彦より遠矢国利の原稿より。基本的な考え方は、ハリスがフロロカーボンに変更されただけで、ほとんど現在も変わっていない。)

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
目次
閉じる