遠矢国利
遠矢流!釣り場選び&ポイント選び
釣りは出撃する1週間前から始まっている
釣れない日よりは釣れる日に釣行したい、これはだれしもが願うことだ。しかし、大半の釣り人は”釣れそうな日”を選んで釣行するのではなく、仕事が休みの日に、家族の白い目を気にしつつ、釣りに出掛けるのである。
自然は生きている。海も、もちろん魚も、自然のリズムのなかで呼吸している。海は海水浴客の都合に合わせて凪日和を作ってくれるわけではないし、魚だって釣り人がくるのを首を長くして待っているわけではない。
だからこそ、事前にいろいろなデータをチェックしておき、計画的な釣りをする必要がある。最近はスポーツ新聞各紙に、速報の欄があって、前日の釣果がおおよそわかるようになっている。最近は、ネット情報も参考にする。便利な時代になったものだ。
私は当時は「日刊スポーツ」「スポーツニッポン」の両紙を参考にしていたが、それはそれぞれの情報内容が若干違うからである。
まず、扱っている地域がちょっとずっ違うし、同じ地区の場合は、情報を出している渡船宿、エサ屋、釣具店が違うので、見比べることによって、正確なデータを入手することができる。
通いなれるとわかるのだが、沖磯の客が多い店、地磯のの客が多い店といった違いがあり、それぞれの情報から、クロダイの乗っ込みや落ちの状況を判断することもできるわけだ。
また、釣り速報欄には前日の潮温が記載されており、「スポ—ツニッポン」だと沖と磯の両方の潮温、潮色(ニゴリ・澄み具合)が示されているので、おおよその状況判断の目安となる。
これらのデータを、天気図と比較しながら一週間まえから見ていくと、大きな自然の動きをつかめる。肝心なのは、前日の釣果ではなくて、もっと長いサイクルでの魚の動きなのだ。釣果は、その方面(狭く限定した場所ではない)が全体に上向きなのか、安定して釣れつづいているか、下火に入ったかという参考にすぎない。
たとえば、前日に20枚のクロダイが出ていたとしても、それが下降線に入ってからの釣果だったら、私はむしろ上向きでの3枚という釣果に注目する。
肝心なのは、前日の釣果ではなくて、もっと長いサイクルでの魚の動きなのだ。
潮回りは釣り場によって有利にも不利にも働く
釣り場の選択でいちばんたいせつなのはなんだろう。潮回りを気にする人は、大潮の後半、大潮あとの中潮を釣行日に当てたがるが、潮回りと休日はこちらが勝手に選ぶというわけにはいかない。
それに、場所によっては大潮回りよりも小潮、若潮などのほうがいいこともあるし、大潮だから必ず潮が動くかというと、意外にまったく動かない場合があるのだ。逆に、潮が速すぎて釣りにならなかったりもする。潮についていえることは、一般的に潮の上げっぱな、上げ7分から8分にかけて、下げ3分に食いの立つことが多いということだ。右へ流れていた潮が、フッと左へ流れを変えたときもチャンスである。
ただ、これはあくまでも一般論にすぎず、上げ潮がいい場所、下げ潮がいい場所などと、釣り場によって潮の条件は違うものだ。それに、最近は干潮間際とか、干潮いっぱいで食ってくるケースがなぜか多い。ハッキリとした理由はわからないが、釣り人の大半が満潮前後を集中的に攻めつづけたため、満潮時は危険という学習をしたせいかもしれない。魚本来の習性はあるにしても、その習性は人間によって変えられるのだ。鯛之浦のマダイ(最近はメジナのほうが多いらしいが)とは反対に、釣り場の魚たちはある決まった潮時になると、いじめられてきたわけである。とくに警戒心の強いクロダイであってみれば、この危険信号に敏感に反応してもおかしくはない
いずれにせよ、釣り人側が潮回りを選ぶことができない以上、その日の潮が有利に働く釣り場へ釣行するしかあるまい。
たとえば春の乗っ込み期、大潮回りだったら極端な浅場を狙ってみる。この時期のクロダイは、産卵のために浅場へと入ってくるが、浅場を攻めるにはなるべく潮はあったほうがいい。上げ6分くらいで釣り場へ入るようにし、じっくりとコマセを打ち、潮が満ちて来るのを待つことだ。
あまり釣り人が入っていなのを待つわけだ。釣り人が入っていないから場荒れしていないし、いつもは攻めきれない沈み根越しの海溝を狙うこともできるはず。渡れないような磯の先端へ出てみるうこともできるはず。
潮回りは釣り場によって有利にも不利にも働く。釣り人側が潮回りを選ぶことができない以上、その日の潮が有利に働く釣り場へ釣行すること。
風向きと水温、ニゴリの関係を頭に叩き込む
いくら潮回りがよく、前日大釣りのあった場所でも、それ以外の条件が揃わなければ釣果はあまり期待できない。房総のように大きな半島や岬がある場所では、風向きによっては状態が一変する。
例として、内房の“浮島“を考えてみよう。
取材当日は北東の風が、かなり強く吹いていた。前日は南西の風が吹き、千倉一帯は前々日の16度から一気に13度へ降下してしまったが、内房の大房岬周辺では18度もあったという。この条件で浮島を選んだ理由は、前日までの水温が残っているだろうという予測と、北東の強風なら風は背中だし、ある程度風が島をまわり込むために多少のウネリとニゴリが期待できるからだ。
以前にも似たような条件の日に釣行して、いい釣りをしたことがあった。その翌日は大雨で、雨後の強い北西風が吹いた。翌々日の朝、風が北東に変わったので、仲間を誘って再度釣行したが、ニゴリが残っていたにもかかわらず、ついにエサ盗りすら現れなかったのである。
水温を計ると、大釣りした前々日から2度も低下していた。北西風がたたったわけだ。内房では北、北西の風は水温を下げ、潮色を澄ませてしまう。しかし、同じ北寄りの風でも、北東は潮を澄ませはするが、水温を下げることはない。水温を上げるのは南西、真南の風だ。千倉方面では、逆に南西で水温は下がり、北風で水温が上昇する。北西だと低下するのは内房と同じであるが、北東は水温を上げ、ニゴリを生む。
ただし、水温を大きく左右するのは強風であって、そよそよと吹く風の場合はさほど影響しない。また、これに黒潮のコースが影響を及ぼすこともある。このように、風の方向と強さによって、釣り場の水温や潮色はガラリと変わってしまう。自然の力がスゴイものと思うのはこんなときだ。
一般に、太平洋に面した外海の場合、南が吹くと水温は上昇するといわれているが、地域によっては逆の場合もあり得るわけで、全国一律に考えることはできない。だから、自分がよく行く釣り場について、風の方向と強さが、水温、ニゴリとどう関係するかを知っておく必要があるだろう。
釣り場は、風向きによっては状態が一変する、自分がよく行く釣り場について、風の方向と強さが、水温、ニゴリとどう関係するかを知っておく必要がある。
その日の釣り場はズームアップ方式で探し出す
釣り場はたくさんある。房総半島だけを取っても、釣りが可能な磯や堤防は数え切れないくらいある。これまで説明してきたような条を照らし合わせてみると、釣れる可能性の釣り場は、かなり限定されてくる。
釣り場の“ズームアップ方式“をもう一度整理してみよう。
①スポーツ紙の釣り情報等(ネットも)で、各地の情報をつかむ。釣果、水温、潮色などの変化を、天気図を見ながら追いかけてみる。
②釣行日の潮回りを調べ、釣り場の特長と照らし合わせ、季節に応じた場所を選んでみる。満潮干潮の時間に合わせ、釣り場到着の時間などを決めておく。
③釣行前日、現地(房総なら内房と外房など条件の違ういくつかの場所を選ぶこと)へ連絡を取り、風向き、ウネリ、ニゴリ、当日の釣果、できれば水温も確認しておく。
④上のデータを参考に、航空写真を眺めながら、数か所の有望な釣り場をピックアップして、おおよその場所(方面)を決める。
⑤釣行当日、現地のエサ屋へは早めに着くようにし、店のご主人と話をしながら、生の情報を入手。風向きをたしかめ、釣り場の最終決定をする。
しかし、これですべてが終わったわけではない。釣り場へ着いたら、磯を歩いてみる。コマセがこぼれていたら、昨日だれかがそこでサオを出した証拠。全面的に信用することはできないが、はじめての場所というときでも、その釣り場のおおよそのポイントがわかるだろう。
つぎにニゴリが入っているかどうか、サラシがあるかどうかを確認する。この段階で、あまりパッとしないなと思ったら、自分の予想を潔く撤回し場所を移動することだ。半信半疑で、たぶんダメだろうなと思いながらサオをだしても、釣りそのものがいい加減になってしまい、せっかくの一日を棒に振ってしまうだけ。
これまでの予測をベースに、新しい釣り場を選択しなおすというのはけっして時間のムダにはならないはずだ。
各地の情報、釣果、水温、潮色などの変化を、天気図。潮回りを調べ、釣り場の特長、風向き、ウネリ、ニゴリ、当日の釣果、水温など、総合的に判断する。釣具店での情報も大事だ。
水深を測ってポイント周辺の立体図を頭に描く
釣り場に着いてまずやるべきことは、エサをつけずにウキを流して、潮の動きを見ることだ。ウネリがあると、サラシができるが、これだけを見て潮が動いていると判断してはいけない。サラシが沖へ伸びていても潮がまったく動いていないケースだって少なくないのである。
従って、ウキをサラシのないところへも投入してみる必要がある。ウキを流しながら同時にどこに沈み根があるか、どのあたりに海溝があるか、可能な限り確かめておくこと。
風の方向、潮の流れ、サラシの強さ、沈み根や海溝の位置がつかめれば、どこに釣り座を構え、竿をどの方向に振り出せば良いか、どこにコマセを打ち、ウキをどこからどこまで流せばいいか、おおよその作戦が立てられるだろう。
次に、ポイント周辺の水深を測っておく。ゴム管付きオモリ(当時はビニール片にカミツブシ大大か特大を使用)で簡易式遠矢ウキによる遠矢式の水深測定器のできあがりだ。
このゴム部分にハリを刺し、ポイントの水深を測るわけだが、ウキのトップがジワジワ沈んでいくまで待っていてはダメだ。仕掛けが遊動し終わると、ウキはトップの付け根までスッと沈む。
そのあと、ハリ先のゴム管付きオモリの重さでウキのトップがスーツとある程度のスピードをもって沈み、いったん動きが静止する。その瞬間を見逃さないでいただきたい。そのまま放っておくと、ウキはゴム管付きオモリの重さに引きずられてジワリジワリと沈んでしまうからだ。
ウキがトップを残したままなら、水深はもっと浅いということだ。この場合は、ウキ止めを少しずつ下げてやる。
逆に、トップがそのままスーッと海中へ沈んでしまったら、水深はもっと深いわけだから、ウキ止めを上げてやる。静止の瞬間が、ちょうどトップが少し海面から出るくらいになるまで、この作業をくり返す。
ポイントと思われるあたりの周辺を探ると、底の状態がなんとなくわかってくる。サオ1本のところに海溝があり、その手まえがゆるいカケ上がりになっていて、左へいくほど浅く、右へいくほど深くなっている。
というように、ポイントの立体図を頭に描くことができれば、緻密な攻め方も可能になる。水深がわかれば、底から正確に10 cmタナを切るなどといった芸当だってできるわけだ。
このように、釣り場に行く前の情報収集から、水深を測って釣り場を把握する前までが、遠矢流の「釣り準備」である。
準備をしっかりしてこそ、釣果が上がるあるのだ。ぜひ準備を整え、春の大物を狙ってチャレンジしてみて欲しい。
この記事は、1988年「実用クロダイ釣り」で遠矢国利の執筆原稿に加筆したものを、編集部で再構成しました。34年前の執筆原稿ですが、遠矢国利名人の釣り場選びの考え方は変わっていませんし、現在でも十分通用する内容です。どうぞご参考になさってください。